『吃音の世界』を読んでみた

こんにちは。きつねえさんです。

ずっと気になっていた『吃音の世界』(菊池良和さん著2019年発行)を読みました。

筆者の菊池良和さんは、1978年山口県出身。
九州大学医学部を卒業された現役の医学博士・医師で、幼いころから吃音があります。

この『吃音の世界』は、菊池先生の幼少期や吃音発症の原因、治療の歴史と現在、吃音外来、吃音をとりまく社会とこれからについて書かれた章の構成となっています。

吃音ドクターを知ったきっかけ

菊池先生が吃音ドクターとして活躍している姿がテレビや新聞で取り上げられ、当時高校生だった私は、衝撃を受けました。

いかに目立たずに生きるか。恥をかかずに過ごすかが毎日の課題だった当時、菊池先生の活躍は自分とまさに真反対。

菊池先生の生き方を羨ましいと思う一方、自分にはこんな生き方は到底ムリだと思いました。

それから10年経ち、社会人になった自分に人生観を変える転機が起こります。

別記事「カミングアウトしたらすごく楽になった話」の出来事です。
よかったら見てください。

吃音であることをカミングアウトしてしばらくしたある時、ふと、あの日テレビで見た吃音のお医者さんのことを思い出しました。

そういえば吃音でも活躍されてるお医者さんがいた気がする・・・

インターネットで「吃音 医者」と検索したところ、九州大学病院で活躍される菊池先生の存在を再確認することができました。

この先生のように、吃音があっても自分のやりたいことをあきらめずにやりたい。

そのためのヒントをもらうために、『吃音の世界』を読みました。

菊池先生のほかの著作に『ボクは吃音ドクターです』や『吃音の合理的配慮』、『子どもの吃音 ママ応援BOOK』などがあります。

吃音の合理的配慮はこちらの記事で書きましたが、もっと詳しく知りたいですし、

子どもにも私の吃音が遺伝する可能性もありますので、対応を知っておきたいです。

近いうちに読むつもりです。

それでは、個人的に特におもしろかった箇所について紹介します。

日本と海外における吃音の歴史

戦前の日本の吃音治療の歴史を知らなったので、興味深く読みました。

日本における吃音矯正のはじまりは、明治・大正時代の教育家である伊澤修二が1903年に東京の小石川に「楽石社」を創立したことに端を発します。弟が吃音であったことがきっかけだったようです。

伊澤の考えは腹式呼吸ができれば吃音は治療できるというもので、弟をはじめとする吃音者たちに声帯の締め付けを緩める訓練をしました。

吃音矯正全治者は17年で約5000人という記録を達成し、内務省より1000万円寄付されました。(後に全治ではないことが書かれています)

電話の発明者であるグラハム・ベルとも交流があったようです。ドイツの吃音研究も視察しました。

1917年に伊澤が亡くなると、松澤忠太が後継者となります。東京・本郷に新校舎の建立が進められたものの、関東大震災により、大阪市立ろうあ学校(現・大阪府立中央聴覚支援学校)の校舎を借りて、吃音矯正を開始しました。

松澤の牽引により吃音治療はさらに発展し、腹部丹田からの発声に加えて、精神力も高めるという根性論的なものでした。スポ根を彷彿とさせる訓練が当時の日本を象徴していますね。
日本吃音学院も大阪市内に完成しました。

天皇陛下に三度の特別参拝も認められたとありますので、社会的に評価されていたようです。

1944年、松澤の死後、戦時中ということもあり日本の吃音矯正の規模は縮小していきます。

吃音者宣言

1966年、吃音者同士のつながりとセルフヘルプの目的を持った言友会が発足します。

当初は「どうしたら吃音が治るのか」をテーマに、治すための努力をともにする集まりだったようですが、途中で方向性が変わり、1976年、「吃音とどう生きるか」を主軸とする「吃音者宣言」が発表されます。以下、一部を抜粋しました。

吃音者宣言

・どもりが治ってからの人生を夢見るより、人としての責務を怠っている自分を恥じよう

・自分の可能性を閉ざしている硬い殻を打ち破ろう

・悩んできた私たちは、人に受け入れられないことのつらさを知っている

・すべての人が尊敬され、個性と能力を発揮して生きることのできる社会の実現こそ私たちの願いである

・私たちはこれまでの苦しみを過去のものとして忘れ去ることなく、よりよい社会を実現するために活かしていきたい

初めて読んだときは衝撃を受けました。
吃音を治せるものなら治したい
でも、吃音が、やりたいことをやらない足かせになっているのだとしたら。

その足かせを外すことはできなくても、引きずって動くことはできます。

吃音を言い訳に、自分の人生をがまんするなということですね。

菊池先生が思うカミングアウトについて

菊池先生は本の中で、吃音であることを自身で宣言する(カミングアウト)について次のように述べています。

  • 人生における選択肢のひとつで、強制はしない
  • ただしカミングアウトは、理想と現実とのギャップ(吃音が出たときに落ち込みや反省)が小さくなるので、本人にとってメリットがある。
  • 大人になって切羽詰まってからやるより、吃音が悪いという誤った意識が定着する前にやった方がよい。

加えて、言い換えや吃音を隠す工夫をできるだけ小さくしたほうがよいと言っています。

吃音をコントロールしているようで逆にコントロールされてしまっていると指摘しています。

どもっても自分の言葉で話すことを推奨しています。

とはいっても、その場の空気や流れを止めたくない時ってありますよね。

私は仕事で吃りそうな時、積極的に言い換えをしています。多少ニュアンスが違って伝わっても、スピーディーな対応が求められる仕事だからです。

言い換えの効かない言葉はどもりながらもそのまま伝えます。ケースバイケースかな。

こちらの記事にも言い換えについて思うところを書きました。

まとめ

『吃音の世界』で次のことがわかりました。

吃音のある現役の医師が書いた自伝。
吃音の歴史やいまわかっている吃音のメカニズムと最新の治療法などが医学的根拠に基づいて紹介されている。

ポケットに入る新書と思えないくらい盛りだくさんの内容でした。

現役の吃音外来の医師(本人も吃音症)が、吃音で悩む人に寄り添い、ひとりじゃないよと優しく語りかけてくれるような本でした。

吃音で悩む人は必読です。

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